冷静なる三一歳の“女医”が直腸がんステージ4の憧れの先輩と再会──手術室という戦場で揺れる決断と涙が、命の重みを胸に刻む最高峰のシリーズ第7弾

佐藤玲は三一歳の女性外科医。恋人とのデートよりもメスを握る手に生きがいを感じ、終わりなき激務の日々を苦にすることはない。そんな折、病棟から呼び出された先には、玲が研修医時代に心酔した辣腕外科医が横たわっていた──診断は直腸がん、ステージ4という衝撃の現実だった。

舞台は昼夜を問わぬ手術室。かつて憧れた先輩が患者として無防備にベッドに眠る姿には、医師としてのプライドと心の葛藤が交錯する。病名を前にしても情を挟む余裕はないのか、女医としての冷徹さで切り抜けるのか。読み進める手を止めない緊迫感が作品全体を貫いている。

著者・中山祐次郎は自身も外科医として現場に立ち、手術の一瞬一瞬に宿る“命の叫び”をこれまでシリーズで描いてきた。第7弾となる本作では、女性医師としての生き様と、医療現場が突きつける非情な選択がこれまで以上に深く掘り下げられており、医療小説ファンのみならず広く感動を呼び起こす。

シリーズ前作『外科医、島へ』や『悩め医学生』の温かさとは一線を画し、よりシリアスなヒューマンドラマとして仕立てられた今作は、手に汗握る術中描写と、人間味溢れるキャラクターの対比が鮮やかだ。研修医として駆け出した頃の自分を思い起こし、成長の痛みを噛み締めた読者ならば、佐藤玲の覚悟に胸を打たれること必至だ。

また、女性医師ならではの視点から綴られる職場の空気感や、夜遅くまで灯る病院の窓明かり、静まり返った廊下の冷たさといった描写は、読む者をまるで手術室の片隅に立つかのように引き込む。息つく暇もなくページは進み、最後には「命とは何か」を改めて問い直す余韻が残る。

本書は288ページ、幻冬舎文庫より2024年12月5日刊行の新装版で、手に取りやすいサイズ感ながら圧倒的な情報量と臨場感を備えている。医療現場のリアルを知りたいビジネスパーソンや、小説としての読み応えを求める一般読者にもおすすめの一冊だ。

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こんな方におすすめ

  • 外科医や医療従事者の日常をリアルに知りたい方
  • 女性リーダーの葛藤と成長物語に胸を打たれたい方
  • 医療ミステリーやシリアスドラマが好きな読書家
  • 命の重みを考える深いテーマに触れたいすべての人