『無痛』は、医学ミステリーとしてのスリル、法と倫理の葛藤、人間の“痛み”の本質を抉る物語が絶妙に融合した一作です。現代文庫ミステリーの金字塔を、この“完全版”で改めて体験してください。

刑法第39条の「心神喪失」問題や先天性無痛症をテーマに、外見だけで“病気を見抜く”驚異の能力を持つ町医者と無痛症の男が、連続猟奇殺人事件の真相に迫る医療ミステリーです。神戸の閑静な住宅地で起きた一家四人惨殺事件を発端に、人格障害の疑い濃厚な犯人像が捜査をかく乱し、やがて精神障害児童施設に収容された14歳少女の「自分がやった」という告白が真相をさらに深い闇へと誘います。 本完全版では、全面改稿による現代的設定の刷新に加え、医療現場の最新知見を書き下ろしエピソードとして収録。残酷な描写と緻密な医学考証が交錯する物語は、読者を一瞬たりとも飽きさせません。

作品概要

『無痛』は、久坂部羊が手掛ける長編医療ミステリーの第1作で、2025年3月に幻冬舎文庫から“完全版”として再刊行されました。凶器のハンマーやSサイズの帽子、LLサイズの靴跡など多くの遺留品にもかかわらず、捜査本部は具体像を絞り込めずに苦戦します。八カ月後に施設収容の14歳少女が自らを“犯人”と名乗るが、その裏には“神の眼”を持つ町医者・為頼英介の存在がありました。

主な登場人物

  • 為頼英介:町医者として人々の身体的特徴を観察し、心身の症状を一目で見抜く“神の眼”を持つ。冷静沈着かつドライな面と、医療への限界を痛感する人間味が同居する人物です。
  • 白神(しろがみ):為頼とは対照的に、究極の医療を追求する若き研修医。技術至上主義と人間愛の狭間で葛藤します。
  • 無痛症の男:先天性無痛症を患い、痛みを一切感じない体を持つ青年。身体的には完璧だが、感情の痛みや“罪の意識”に苛まれる存在として描かれます。

あらすじ

神戸の閑静な住宅地で起きた一家四人惨殺事件。凶悪かつ猟奇的な手口に、被疑者は人格障害の疑いが濃厚とされますが、警察は犯人の特定に至りません。八カ月後、精神障害児童施設に収容された14歳少女が「私が犯人だ」と自白するも、為頼は外見だけで精神障害の有無や犯因症を見抜く技術を駆使し、少女の供述に疑問を抱きます 。同時に、無痛症を持つ男が事件と奇妙な関係を示唆し、物語は複雑な心理戦と医学的推理が絡み合う展開へと進みます。

テーマと魅力

  • 刑法39条と心神喪失:犯人が心神喪失を装うことで免責を狙う法的グレーゾーンを痛烈に描写し、司法と医学の交錯を問いかけます。
  • 先天性無痛症:痛みを感じない体の恐怖と、“痛み”という人間らしさの重要性を対比させる設定が読者の共感と戦慄を誘います。
  • 医学的リアリズム:著者自身が医師であることから、混合診療や医学知識をリアルに反映。現代医療の矛盾と限界をエキサイティングに描き出します。
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完全版の見どころ

全面改稿により、スマートフォンやSNSを取り入れた現代的な舞台設定に刷新。さらに書き下ろし短編「Emergency Room」が巻末に収録され、為頼と白神の知られざる過去と医療倫理の葛藤を深堀りしています。文庫カバーは、赤を基調にした血痕と無表情な為頼の瞳を大胆にあしらい、ミステリーの緊張感を一層高めています。

『無痛』は、医学ミステリーとしてのスリル、法と倫理の葛藤、人間の“痛み”の本質を抉る物語が絶妙に融合した一作です。現代文庫ミステリーの金字塔を、この“完全版”で改めて体験してください。