ブルーピリオド ソツなく器用に生きてきた高校生・矢口八虎は、苦手な美術の授業の課題「私の好きな風景」に困っていた。悩んだ末に、一番好きな「明け方の青い渋谷」を描いてみた。その時、絵を通じて初めて本当の自分をさらけ出せたような気がした八虎は
薄暗い教室の隅で、ひとりの高校生、矢口八虎は机に向かっていた。彼は、いつもそっけなく淡々と日々をこなすだけの、いわば“生きている実感”を失った青年だった。しかし、ある朝、ふとした美術の授業で出された課題―「私の好きな風景」―に、彼の心はかすかな鼓動を取り戻すことになる。
第一章:明け方の青い渋谷
その日、八虎は悩みながらも一枚の絵筆を手に取る。ふと見上げた窓の外、夜明け前の渋谷は、誰もが忘れかけた青い輝きを放っていた。彼はその情景に魅了され、筆を走らせる。キャンバスに映し出されるのは、ただの風景ではなく、彼自身の内面に潜む“本当の自分”の断片だった。―この瞬間、八虎は自分がこれまで生きてきた日々とは全く違う、情熱に満ちた新たな世界の扉を開けたのである。
第二章:挑戦という名のアート
その絵に出会った八虎は、次第に美術の世界へと引き込まれていく。教室での淡々とした時間は、色彩と線が語る無限の可能性へと変わり、彼の日常は一変する。才能が乏しい自分でも、情熱と努力で切り拓けるのではないか―そう信じた彼は、国内最難関と噂される東京藝術大学の受験に挑む決意を固める。ライバルたちの圧倒的な画力、答えのないアートの世界に、数々の壁が立ちはだかるが、彼は「天才ではないなら、天才と見分けがつかなくなるまで努力する」という固い決意を胸に、一歩ずつ歩み始める。
第三章:仲間との絆と孤高の戦い
挑戦の道は決して平坦ではなかった。八虎の周囲には、彼と同じく自分の「好き」を模索する仲間たちがいた。皮肉にも、明るく華やかな表情の同級生、通称ユカちゃん(鮎川龍二役の高橋文哉)は、時に八虎の孤独な戦いに影を落とす。しかし、彼らとの出会いは、八虎にとって大切な励ましであり、互いに切磋琢磨することで、彼は自らの足りなさや未熟さと向き合い、成長していく。美術予備校で天才と謳われるライバル、高橋世田介(板垣李光人)との出会いは、彼にとって最大の試練であり、同時に己の限界を超えるための大きな糧となった。
第四章:青く燃える情熱
やがて、八虎は自分だけの色―それは、明け方の青のように、澄み切った情熱そのもの―を見出す。彼の描く絵は、単なる技術や知識ではなく、心そのものの叫びであり、孤独と苦悩、そして未来への希望が混ざり合った、唯一無二のアートへと昇華していった。監督・萩原健太郎の緻密な演出と、脚本家・吉田玲子が紡ぐリアルな青春ドラマは、誰もが共感できる「努力」という普遍のテーマを映し出し、観る者の心に深い感動を呼び起こす。
エピローグ:自分だけの色を求めて
『ブルーピリオド』は、ただ美術の世界に飛び込む青春物語ではない。自分の内側に眠る情熱と、まだ知らぬ可能性を見つけるための、孤高でありながらも温かな仲間との絆の物語である。画一的な日常に彩りを求め、自分の「好き」を武器に未来へと走り出す八虎の姿は、誰もが心の奥に抱く“本当の自分”への憧れそのものだ。
この映画は、2024年8月9日(金)にワーナー・ブラザース映画から劇場公開され、国内外で高い評価を受ける「マンガ大賞2020」受賞原作を実写化した傑作だ。自分だけの色を探し求め、挑戦し続ける勇気を、あなたもぜひこの作品で感じてほしい。