「こころ」を失った世界を照らす、光と絆のファンタジー巨編! 大切な人に想いを届け、真実を探し求める旅: 絶望の中で少年が掴む、勇気と使命の物語

この物語の舞台は、人工の太陽が昇るにもかかわらず、その光が大地を照らさず、常に薄暮に閉ざされた幻想的な世界「アンバーグラウンド」です。そこでは、人々の「こころ」(感情や記憶、絆)を失った郵便物(テガミ)として運び、光の届かない場所を懸命に繋ぐ者たちがいます。彼らこそが、主人公ラグ・シーイングが目指す職業、「テガミバチ」です。
物語は、幼いラグが、ある日突然、母を奪われ、自分自身が「郵便物」として運ばれるという、残酷な境遇から始まります。この絶望的な旅路で、ラグの心を救い、目的地まで送り届けてくれたのが、テガミバチのゴーシュ・スエードでした。ゴーシュの優しさ、そしてテガミバチとしての誇り高い生き様に触れたラグは、やがて彼と同じ道を歩むことを決意します。
私がこの作品に強く惹かれたのは、この世界の根幹にある「こころ」の概念の美しさと、その失われゆくものへの深い哀愁です。郵便物には「こころ」は残っていないとされますが、テガミバチたちは、自らの「こころ」と命を賭けて、それを届けるという矛盾を抱えています。この行為そのものが、薄暗い世界の中で、人間が持つ「絆」と「希望」の光を灯し続けているのです。
数年後、テガミバチとなったラグは、相棒の肉食動物「ディンゴ」であるニッチと共に旅を始めます。彼の旅の原動力は、郵便物として運ばれた際に感じた、ゴーシュの温かい「こころ」を「返したい」という純粋な願い。そして、「こころを失踪した」と言われるゴーシュの行方を追い、彼に再会するという強い決意です。
この作品の魅力は、美しい世界観と緻密な設定、そして何よりも浅田弘幸先生の繊細で情感豊かな画力にあります。薄暗い空の下で、ラグが放つ特殊能力「心弾(しんだん)」の光は、単なる戦闘シーンではなく、悲しみや決意といった「こころ」のエネルギーの結晶として描かれ、読者の胸を打ちます。
道中、ラグは様々な人々と出会い、彼らが託すテガミに触れることで、人々の人生、喜び、そして悲しみを体験していきます。この過程を通じて、ラグ自身の「こころ」も成長し、テガミバチという仕事の真の意義を深く理解していきます。
「キミの『こころ』を届けます」という言葉は、単なる業務のスローガンではありません。それは、絶望の中にあっても、人間同士の温かい繋がりこそが、世界を救う唯一の光であるという、この壮大なファンタジーに込められた、切実なメッセージなのです。読者はきっと、ラグの旅路に同行し、失われかけていた自分自身の「こころ」の温かさを再認識するでしょう。






















