アンパンマンの生みの親・やなせたかしの素顔にふれる一冊!『やなせたかし先生のしっぽ』――夫婦で歩んだ創作の日々と、優しさに満ちた「とっておきの物語」が、今、心をあたためる。

「アンパンマン」がなぜ、こんなにも長く愛されるのか?
その答えが、やなせたかしという人物の人生と心に宿っています。

『やなせたかし先生のしっぽ やなせ夫妻のとっておき話』(小学館)は、アンパンマンの生みの親として知られるやなせたかしさんと、その最愛の妻・やなせ・小松暢(のぶ)さんとの夫婦のエピソードを、あたたかい筆致で綴った一冊です。

この本は、単なる伝記や評伝ではありません。そこに描かれているのは、ひとりの作家の「人としての姿」であり、長い創作活動を支え合った“夫婦の愛と信頼”の記録なのです。

 

タイトルに込められた“しっぽ”とは?

本書のタイトルにある「しっぽ」は、やなせ先生ご自身が自分の人生の“本当の気持ち”を表すキーワードとして語っていた言葉。「しっぽがあると、嘘がつけない。隠したい気持ちや本音が、つい尻尾に出てしまう」という先生のユーモラスで深い人生観がそこに込められています。

この一冊は、そんな「しっぽ」を見せながら、どこかはにかみながら生きたやなせ先生と、そっとその横に寄り添っていた暢さんの、とっておきの物語です。

 

知られざる「やなせ夫妻」の日常と心温まるエピソード

アンパンマンという国民的ヒーローの裏にあったのは、夫婦二人三脚の地道な創作の日々でした。売れない時代を支え合いながら、互いに励まし合い、ときにはぶつかり合いながらも、最後まで手を取り合って歩み続けたふたり。

たとえば、作品がまったく売れなかった時代、生活に困窮していたにもかかわらず、暢さんは「あなたの絵が一番」と言って、やなせ先生の心を折らせなかったというエピソード。
また、アンパンマンの誕生秘話にまつわる裏話や、先生が戦争体験をどう作品に昇華していったかという話も収録されており、「なぜアンパンマンは顔をあげるのか」「なぜパンをちぎって分け与えるのか」といった根源的な疑問にも、感動的な答えが示されています。

 

ユーモアと哀愁が同居する語り口

やなせ作品といえば、どこかユーモラスで、しかしその裏には常に“さびしさ”や“痛み”が潜んでいます。本書もまた、軽やかな語り口ながら、戦争や死別といった人生の深いテーマにも触れています。

暢さんが先立ってしまったあとも、先生は彼女との思い出を「日記のように」描き続けました。
その姿からは、表現とは何か、夫婦とは何か、人生とは何かという、誰もが避けては通れない問いが静かに浮かび上がってきます。

 

優しさ”を信じる力をくれる本

現代は、怒りや焦り、競争が渦巻く時代です。そんな中で、「困っている人にパンを分け与える」というアンパンマンの思想は、どこまでも優しく、どこまでも力強いメッセージとして響きます。

この本には、その根底にあるやなせたかしの“人間としての優しさ”と、“人生に対するまっすぐなまなざし”があふれています。そしてその優しさを支えた、暢さんという存在の大きさに、胸が熱くなるでしょう。

 

まとめ:人生の中で、大切な何かを思い出させてくれる一冊

『やなせたかし先生のしっぽ』は、読後にふっと微笑みがこぼれ、気がつけば大切な人に会いたくなるような本です。

アンパンマンのファンはもちろん、長年夫婦として連れ添ってきた人、これから人生を共にする誰かと歩もうとする人、あるいは、創作や芸術を志すすべての人に読んでいただきたい一冊です。

大切な人と手をつないで歩くこと。誰かを信じて生きること。そして、日々の中に小さな“しっぽ”を見つけること――
そんな優しい時間を、この本はきっとあなたに思い出させてくれます。