「どこにも僕のいる場所はない」母校で再会した“祟り”の少年、高里──十二国記最新長編『魔性の子』が描く、神隠しの謎と教師・広瀬の葛藤、そして心の深淵をえぐる戦慄の序章。
教育実習のため、十数年ぶりに母校へ足を踏み入れた広瀬悠真。かつて自分が抱えた居場所のなさと同じ影を宿す生徒・高里零(たかさと れい)の存在に、自然と関心を寄せる。だが、零を嘲笑い虐めた同級生が相次いで不慮の事故に巻き込まれ、「高里は祟る」と恐れられるように。噂の根底には、誰にも語られることのなかった零の“神隠し”体験が関係しているらしい──。真相を追いつつ、教育者として彼を守ろうと決意した広瀬の胸中に、次第に暗い不安と焦燥が渦巻いていく。
物語の鍵となる設定
1.母校という舞台
菱海(りょうかい)学園中等部。かつての自分も、地域外れのこの学び舎で居場所を見いだせずに苦しんだ広瀬。今、教壇に立つ彼は教え子の孤独をどう支えるのか。教室や廊下、校庭の片隅にさりげなく生まれる“不気味な気配”が、物語の緊張感を高める。
2.“神隠し”の影
零の家族が語ったのは、幼い頃にひとりで庭先から忽然と姿を消し、数日後に血痕を残して戻ってきたという奇妙な記憶。だが、その詳細は誰も知らない。零自身も言葉を濁すだけ。事故を重ねたクラスメイトたちの不審死との因果――果たしてそれは超自然か、それとも人間の深層心理か。
3.広瀬と零、二人の心の傷
- 広瀬悠真:自らの“失敗”経験を胸に秘める若手実習教師。理想と現実の間で揺れながら、教育の真意を問い直す。
- 高里零:物静かで無表情、だが瞳は何かを訴えるように潤んでいる。祟りの噂に怯えながらも、自分を理解してくれる大人を求めずにはいられない葛藤を抱える。
緊張を高めるエピソード
- 廊下の窓ガラスが零の帰宅後にだけ割れる怪現象。誰も近づけない原因不明のヒビが走る。
- 深夜、空っぽの教室にぽつんと置かれた零の机。翌朝には机上のノートが血のように赤く汚れている。
- 広瀬が見た悪夢──零を庇ったはずの自分が、生徒たちに糾弾される悪夢。その意味するものとは。
読むべき理由
- 戦慄のホラー要素:十二国記の幻想世界観を離れ、現実世界の“学園ホラー”とミステリーが融合。
- キャラクター同士の心の機微:教育者と生徒という距離感のなかで生まれる信頼と疑念。
- 深まる謎と巧妙な伏線:神隠しの真相、祟りの正体、広瀬のトラウマが絡み合い、一気読み必至の展開。
- シリーズへの新たな視点:『十二国記』のもうひとつの側面を垣間見る、異色のスピンオフ的長編。
母校の教壇で再会した“祟りの子”と、その謎に挑む教師の物語は、やがて二人の過去と未来を激しく交錯させる。あなたの「安心できる場所」を問い直す戦慄の序章を、どうぞお楽しみください。