氷河期の闇から紡がれる魔術の系譜四万年、考古学・人類学を越えて現代へ――秘儀の深淵から再魔術化の未来を示す壮大叙事

『魔術の歴史: 氷河期から現在まで』は2023年3月25日に青土社より発売された単行本で、ISBN-13は978-4791775446、全512ページのハードカバー仕様である。著者クリス・ゴスデンはオックスフォード大学教授として考古学・民族学・人類学を横断し、「魔術」の研究をリードする世界的権威である。翻訳は松田和也氏が担当し、原書の学術的精緻さを損なわずに日本語読者へ届けている。本書は主に四つの章構成で、起源から現代までの魔術の変遷を時代ごとに克明に描写し、最後に未来への展望を示す構成となっている。

内容紹介

  1. 起源と考古学的視点

初章では、紀元前4万年前の氷河期に遡り、人類が洞窟壁画や儀礼遺物を通じて魔術的思考を始めた痕跡を考古学資料から考察する。南アジア地域を除く世界各地で発掘された呪具や土偶、動物骨を用いたシャーマニズム的実践が紹介され、魔術が「世界との対話」であったことを示す。著者はこれらの初期魔術を、「環境へのコミットメント」と「共感的宇宙観」の原型と位置付ける。続いて、氷河期終焉後の農耕社会成立とともに、呪術的技法が農業・狩猟儀礼へと組み込まれた過程を民俗学的視点から紐解く。

  1. 中世・ルネサンス期の錬金術と魔女裁判

第2章では、中世ヨーロッパにおける錬金術の隆盛と魔術思想の変遷が扱われる。賢者の石探求に見られる化学実験の萌芽から、教会権力との軋轢、魔女裁判の社会的・宗教的背景を詳細に分析する。また、ジョン・ディーなどルネサンス期の魔術師たちが「科学の父」ニュートンと同時代に錬金術研究を進めた事実を掘り下げ、近代科学の成立史との対比を試みている。

  1. 近代化による魔術の周縁化と再興

第3章では、啓蒙思想と産業革命を経て「合理性」「客観性」が至上とされ、魔術が学術・宗教の周縁へ追いやられる過程を描写する。しかし19世紀末から20世紀にかけ、神秘主義やオカルティズム(黄金の夜明け団、テオソフィー協会、ウィッカ運動など)の勃興によって、魔術が再興を遂げた動態を社会史的に再構築する【​】。これにより、魔術は学界外のサブカルチャーやポストモダン思想とも交わりつつ、新たな展開を見せることになる。

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  1. 現代の再魔術化と未来展望

最終章では、21世紀の量子力学的宇宙観や環境問題への関心が魔術的アニミズムと呼応し、「再魔術化」の潮流が高まっている現状を論じる【​】。著者は、魔術・宗教・科学の関係を再構築することで、貧困・不平等・資源枯渇・環境破壊といった現代的危機への新たな処方箋を提案する。また、未来への展望として、「世界を生命エネルギーのネットワークとして捉え、互いに共感し協働するアクティブ・アニミズム」の可能性を示し、読者自身の実践を促す結論を提示する。

――この一冊を通じて、魔術の深淵なる歴史を旅しながら、現代社会における「魔術」の再発見と実践への道筋を見出してください。