宿命に抗う知と魔術の物語:救出劇から帝国拡大を巡る策略、同時遠征と粛清、そして魔女への誓いが交錯する『天幕のジャードゥーガル 5』ボラクチンの計略によるオゴタイ暗殺未遂の件で捕らわれたドレゲネを救出したファーティマ。
『天幕のジャードゥーガル』は、13世紀モンゴル帝国を舞台に、捕虜となった学者少女シタラが「ファーティマ」と名乗り、後宮に潜入して権力を握る元実在の女性を描く伝記フィクションです。第5巻は2025年4月16日に発売されたシリーズ完結巻で、ドレゲネ救出からオゴタイ帝国の支配領域拡大、複数遠征、粛清劇、そして魔女への誓いまでが一気に描かれるクライマックス篇となっています。物語はオイラト族への粛清や南宋・高麗・キプチャクへの同時遠征を通じて、「知」と「力」が激突し、帝国内部の暗闘が加速します。これまでの伏線が集結し、宿命を背負うヒロインたちの運命が大きく動き出す──シリーズ最大の見せ場を堪能できる一冊です。
背景
本作の主人公ファーティマは、モンゴル帝国の後宮で第六皇后ドレゲネの側近を務め、やがて「ジャードゥーガル(魔術師)」と呼ばれる実在のファーティマ・ハトゥンをモデルにしています。原作はトマトスープ氏による『天幕のジャードゥーガル』で、2022年8月の第1巻から開始され、全5巻が累計176ページ前後で刊行されています。歴史的事実とフィクションを融合させた巧みな脚色により、当時の権力構造や知識人の視点が臨場感たっぷりに再現されているのが特徴です。
第5巻のストーリー
修羅場の幕開けは、ボラクチンの謀略でオゴタイ暗殺未遂に巻き込まれ、捕らわれたドレゲネをファーティマが救出するシーンから始まります。救出後、二人は「魔女」として帝国と戦うことを誓い、ボラクチンの秘密を利用して彼女に接近。これがきっかけでドレゲネは第二妃へと昇格し、後宮での権力基盤を飛躍的に強化します。同時に1233年にはオゴタイがペルシア総督府を設置し、帝国の領域拡大が本格化する様子が描かれます。
大規模戦略面でも大きな動きがあり、オイラト族への粛清を皮切りに、南宋・キプチャク(キプチャク)・高麗への同時遠征が展開されることで、帝国の「鉄と血の支配」が如実に表現されます。さらに新キャラクター・コルゲンが登場し、その印象的な表情描写が読者の視線を釘付けにします。巻末では、これらの遠征を統括する重鎮クチュの急逝が示唆され、次巻以降の新たな政局を予感させる衝撃的な幕切れを迎えます。
魅力と見どころ
- 知と力の衝突:学問を武器とするファーティマの「知」と、モンゴル軍の「力」がせめぎ合う構図は、本作屈指の読みどころです。
- 緻密な史実描写:実際の歴史に則った遠征ルートや後宮内政の流れが丁寧に再現されており、物語の重厚感を支えています。
- キャラクター表現:ドレゲネやボラクチンをはじめとする後宮メンバーの権謀術数、コルゲンの衝撃的登場など、登場人物たちの生々しい感情がビジュアルとセリフで鮮やかに描かれます。
- クライマックスへの高揚感:帝国の支配構造が大きく動く本巻は、シリーズの山場。各種戦略や謀略が次々と展開し、読後には深い余韻が残ります。
結び
第5巻は、シリーズの集大成として「知」と「魔術」による予想を超える逆襲劇を描き出します。歴史物語の新たな地平を切り拓く本作の魅力を、ぜひ最後まで味わってください。