鬼平犯科帳「兇剣」。十六年ぶりの京都で長谷川平蔵を待ち受ける大盗賊の陰謀。謎の娘およねを救い、奈良へと向かう道中に迫る高津の玄丹一味の魔手。時代劇の粋と迫力の殺陣で描く、本格エンターテインメントの傑作。

物語は、長谷川平蔵が父・宣雄の墓参のために京都を訪れるという、静かな情緒を纏って始まります。同心の木村忠吾を伴い、慣れ親しんだ江戸とは異なる空気感の中で過ごすひととき。しかし、その静寂は、ならず者に追われる口のきけぬ娘・およねとの出会いによって破られます。彼女を救い、奉行所に預けようとした平蔵でしたが、およねが示したのは、平蔵への切実な同行の願いでした。一見、か弱い娘の背後には、大坂の旅宿「出雲屋」の主人という裏の顔を持つ巨悪と、伝説的な盗賊・高津の玄丹一味の影が濃く落ちていました。

この作品の最大の魅力は、長谷川平蔵という男が持つ、圧倒的な器の大きさと慈愛の深さにあります。およねの抱える沈黙の叫びを汲み取り、危険を承知で彼女を伴い奈良へと向かう道中、平蔵の鋭い感覚は敵の視線を捉えます。京都から奈良へと続く美しい風景を舞台にしながら、一刻一刻と死線が近づいてくる緊迫感。それは、池波正太郎作品特有の、美しい季節の移ろいと、命のやり取りが隣り合わせにある「美学」そのものです。

私自身、この映像を鑑賞する中で最も心揺さぶられたのは、平蔵が見せる「静」と「動」の対比です。父の墓前で亡き人を偲ぶ穏やかな横顔から、一転して玄丹一味の刃を迎え撃つときの凛とした立ち姿。白刃が閃き、闇を切り裂く殺陣の凄まじさは、まさに「鬼の平蔵」の異名にふさわしい迫力を放っています。また、およねの献身的な姿と、彼女を守ろうとする平蔵たちの絆が、殺伐とした捕物帖の中に温かな人間模様を織り込み、物語に深い余韻を与えています。

鬼平犯科帳 兇剣

京都、奈良という歴史ある土地の風情が、物語に重厚な格式を加えています。ただの勧善懲悪に終わらない、悪党の中にも存在する歪んだ情理や、宿命に抗う人々の姿。これらが複雑に絡み合い、結末に向かって加速していく構成は見事というほかありません。

これは、時代劇が持つ「男の美学」と、日本人の心に響く「情愛」を極限まで追求した一編です。十六年という月日の重み、そして正義を貫く者の覚悟が、観る者の魂に熱く訴えかけます。平蔵が振るう剣の先に、一体どのような正義が立ち現れるのか。その歴史的な名場面を、ぜひあなたの目で見届けてください。