「湖底に潜む“怪物”とは何か—単身子を育てる母、優しい教師、無邪気な子供たちが巻き込まれる失踪事件。是枝裕和×坂元裕二×坂本龍一が放つ深淵のミステリー映画『怪物』」
『怪物』は、静かな湖畔の町を舞台にした心理サスペンスです。息子を愛するシングルマザー・麦野早織(安藤サクラ)は、夫と死別しながらも小学五年生の息子・湊(黒川想矢)を大切に育てています。ある日、湊の奇妙な行動を不審に思った早織は、保利道敏(永山瑛太)という生徒思いの担任教師に相談。だが、道敏は優しい言動の裏にどこか影があり、学校と町は次第に二人の見解の食い違いに揺さぶられていきます。そして嵐の朝、湖辺の秘密基地で遊んでいた子供たちが忽然と姿を消し、町中が恐怖と疑念に包まれる――。この“消失”事件を軸に、母と教師、そして子供たちの目線が交錯する群像劇が幕を開けます。
あらすじと登場人物
主人公の麦野早織は、地元の絵本専門店で働きながら、息子・湊と二人暮らしを送っています。湊は湖畔の小学校に通い、クラスメイトの星川依里(柊木陽太)らと無邪気に遊ぶ毎日。しかし、依里の両親や学校側は、彼らの些細ないざこざをただの「子供の喧嘩」と片づけようとします。一方、担任教師の保利道敏は、生徒を思うあまり過剰に干渉する一面を見せ、早織と微妙な緊張関係を生みます。やがて湖畔の廃じん車両が“秘密基地”として子供たちに使われていることを察知し、早織は道敏と共に基地を調査。しかし突如の豪雨で視界を奪われたその夜、子供たちは忽然と姿を消してしまうのです。
制作背景と見どころ
本作は2023年6月2日に日本公開され、カンヌ国際映画祭コンペティション部門にも出品されました。是枝監督が脚本家・坂元裕二と組むのは初の試みで、緻密な人間描写と張りつめた心理描写が融合した脚本は大きな話題を呼びました。音楽は坂本龍一が担当し、黒い湖面の静寂を掻き乱すようなピアノとストリングスが、場面ごとの不安感を一層際立たせています。
撮影は主に長野県諏訪地域の湖畔と学校施設を中心に行われ、地元の小学生約700名がエキストラとして参加しました。湖面を見下ろす廃トンネルや、児童が秘密基地にする旧列車車両など、ロケ地の選定もストーリーに深みを与えています。キャスティングは、主演の安藤サクラと永山瑛太に加え、黒川想矢、柊木陽太、田中裕子、中村獅童ら実力派が脇を固め、群像劇としての厚みを演出しています。
テーマとメッセージ
『怪物』が問いかけるのは、「本当に恐れるべき“怪物”とは何か?」という普遍的なテーマです。表層的には「子供の失踪事件」ですが、社会の無関心、教育現場の閉鎖性、親と教師の視点のズレなど、現代日本が抱える課題を巧みに織り交ぜています。是枝監督自身は「湖の静寂と闇のコントラストに、人間の内面に潜む“怪物性”を映し出したかった」と語っており、その映像美にも注目です。
是枝裕和監督が描く、静謐と緊張が紙一重の世界。消えた子供たちの行方と、誰もが抱える“怪物”をめぐる深い問いを、ぜひ劇場で体感してください。