老後に備えて異世界で8万枚の金貨を貯める少女の奮闘。天涯孤独のミツハが二つの世界を往来し20億円の資産形成に挑む。知略と現代兵器で運命を切り拓く不屈の物語。老後の安泰を懸けた究極の将来設計を今こそ体感せよ。

両親と兄を不慮の事故で失い、住み慣れた家も将来の夢も、すべてが砂のように崩れ去っていく。そんな極限の絶望の中にあったミツハが、謎の存在から授かったのは、現代と異世界を自由に行き来できるという奇跡の能力でした。しかし、彼女はその力を英雄になるためでも、王宮で贅沢をするためでもなく、ただ一人の女性として「老後を平穏に生き抜くための資金作り」に注ぎ込みます。このあまりにも切実で等身大な動機に、私はこれまでの異世界物語にはなかった深い共感と、彼女の逞しさに対する敬意を抱かずにはいられませんでした。

ミツハが掲げた目標は、金貨八万枚、日本円にして二十億円。頼れる身寄りが一人もいない彼女にとって、金銭は単なる富の象徴ではなく、自分を裏切らない唯一の盾なのです。実際に物語を追う中で私が最も心打たれたのは、彼女の徹底した合理性と、時折見せる年相応の弱さとの対比です。異世界の未開な市場に現代の知恵を持ち込み、時には現代の技術や人脈を駆使して困難を排除していく。その姿は、逆境に立たされた人間が知恵を絞り、自らの足で立とうとする気高い自立の象徴に見えました。

物語が進むにつれ、ミツハの戦いは単なる貯金から、周囲の人々や異世界の均衡を守るものへと広がっていきます。しかし、その根底にあるのは常に「自分の人生を自分の手に取り戻す」という揺るぎない意志です。彼女が異世界の貴族や商人たちと対等に渡り合い、時には現代の知識で彼らを圧倒するカタルシス。それは、社会の不条理や将来への不安に晒されている私たち読者の心に、一筋の爽快な風を吹き込んでくれます。