『ツレがうつになりまして。』:突然「死にたい」とつぶやいた夫。笑いと涙で描く、うつ病との闘いと夫婦の絆、そして小さな奇跡の物語!
「まさか、うちのツレが…?」ある日突然、働き盛りの夫が「死にたい」とつぶやいた――。そんな衝撃的な告白から始まる『ツレがうつになりまして。』は、うつ病というデリケートなテーマを、ユーモラスかつ心温まる筆致で描いたコミックエッセイです。夫の病をきっかけに大きく変わる夫婦の形、そしてどん底から見つけたささやかな幸せと奇跡が、読者の心を深く揺さぶります。
物語の語り手は、漫画家の細川貂々さん。彼女とバリバリ働くスーパーサラリーマンの夫「ツレ」、そしてイグアナの「イグ」という、ちょっと変わった家族の日常が描かれます。しかし、その平穏な日々は、ツレの突然の「死にたい」という言葉で一変します。病院での診断結果は「うつ病(心因性うつ病)」。仕事の激務とストレスが原因だとわかり、貂々さんは究極の選択を迫られます。「会社辞めないなら、離婚する!」。これは、夫を何よりも大切に思うがゆえの、彼女の精一杯の叫びでした。
ツレが会社を辞め、主夫になったことで、家事嫌いの貂々さんは内心「やったー!」と喜ぶのですが、現実はそう甘くはありません。収入源が途絶え、高崎家(細川家の本名)は一気に「貧困街道まっしぐら!」となります。このリアルな経済状況の描写も、多くの読者の共感を呼ぶ点です。お金がない中で、いかに工夫して生活していくか、夫婦で力を合わせる様子がコミカルに、しかし切実に描かれます。
この作品の最大の魅力は、うつ病という重いテーマを扱いながらも、決して暗くならず、随所に笑いと温かさがあふれていることです。病気と闘うツレの葛藤はもちろん、それを支える貂々さんの奮闘ぶりもまた、人間味に溢れています。時には優しく、時には厳しく、しかし常にツレを信じ、前向きな気持ちで病気と向き合う彼女の姿勢は、多くの読者に勇気を与えます。特に、貂々さんが「編集部へ行き新しい仕事をもらい」、家計を支えるために奮闘する姿は、家族のために強くなる女性の姿として、心に響きます。
ツレの体調が徐々に回復に向かい、ほっと一安心する夫婦。小さなつまずきや試行錯誤を繰り返しながらも、二人の絆は一層深まっていきます。そして、物語の最後には、誰も予想しなかった「ある奇跡のような出来事」が待っています。それは、どん底を経験した夫婦だからこそ得られた、かけがえのない宝物であり、読者にも希望の光を与えてくれることでしょう。
『ツレがうつになりまして。』は、うつ病の当事者やその家族はもちろん、誰もが直面する可能性のある「心の病」について、深く考えさせられる一冊です。しかし、それと同時に、夫婦の絆、家族の温かさ、そして人生における小さな喜びや奇跡に気づかせてくれる、感動的な物語でもあります。
この本を読めば、きっとあなたは、うつ病への理解を深めるとともに、何があっても支え合える家族の温かさ、そしてどんな困難も乗り越えていける人間の強さを感じられるはずです。ぜひ、この心温まる物語を手に取り、ツレと貂々さんの「なんてことないけど、なんてことないからこそ、特別」な日々に触れてみてください。