すべての、白いものたちの (河出文庫 ハ 16-1)アジア初のブッカー国際賞作家による奇蹟の傑作が文庫化。おくるみ、産着、雪、骨、灰、白く笑う、米と飯……。朝鮮半島とワルシャワの街をつなぐ65の物語が捧げる、はかなくも偉大な命への祈り。

冬の朝、雪が静かに降り積もる小さな町の片隅で、ひとりの青年がふと立ち止まった。彼の目に映るすべては、純白の光と影―それは、町の外れにひっそりと佇む古い書店の窓に映る白い世界、そして、彼自身の心に宿る淡い記憶のかけらだった。

その書店の棚に、ひときわ異彩を放つ一冊の本があった。タイトルは『すべての、白いものたちの』。この本は、河出文庫の精選された一冊として、ハードな風雪の中でも色あせぬ真実と美しさを映し出す―まるで世界中のすべての「白いもの」たちの物語を秘めたかのようだった。

青年は本に手を伸ばし、その表紙にそっと触れる。そこには、雪の結晶のような細かな模様と、儚くも清らかな光が宿っていた。ページをめくるたび、彼は冷たく輝く氷の世界、透き通る大理石の彫刻、そして無垢な白い花々が咲き誇る風景に心を奪われた。著者は、白さという色が持つ普遍の意味―純粋さ、孤高、そして再生―を、繊細な筆致で紡ぎ出していた。

created by Rinker
河出書房新社
¥935 (2025/03/04 20:21:45時点 Amazon調べ-詳細)

物語は、白いものたちがただの色ではなく、そこに宿る生命の息吹や、記憶と未来への希望であることを、青年にそっと教えてくれる。風が雪を舞い、木々が真っ白に染まる冬の日、彼はこの一冊を通して、自らの内面に潜む白い記憶、そして新たな始まりへの扉を見出すのだった。

『すべての、白いものたちの』は、ただの文学作品ではなく、読者一人ひとりが心の奥底に持つ無垢な感情と向き合うための、静かなる啓示の書。冬の澄んだ空気の中、青い瞳を輝かせながらページを閉じた青年は、いつしか新たな自分に出会っていた。