「霧をはらう(上) (幻冬舎文庫)」小児病棟で起きた点滴殺傷事件。4人の子供の点滴にインスリンが混入され、2人の幼い命が奪われた。物証がないまま逮捕されたのは、生き残った女児の母親。献身的な看病のあまり、周囲との軋轢も生んでいた彼女は取り調べで自白するが

雨上がりの夕暮れ、都会の雑踏を離れた静かな路地裏にある古ぼけた喫茶店。その店内は、柔らかなジャズが流れ、時折窓越しに差し込む夕日の光が、埃を浮かせるように優しく揺れていた。

この喫茶店に、一人の若い弁護士・伊豆原は、ふとした瞬間に立ち寄った。疲れた表情の彼の手には、ひときわ目を引く一冊の文庫本が握られていた。その表紙には、深い霧を払うかのような幻想的なイラストと共に、タイトル「霧をはらう(上)」が堂々と刻まれている。出版は幻冬舎文庫――この本が、彼の胸にじんわりと迫る謎を象徴しているかのようだった。

本書は、小児病棟で起きた衝撃の事件を背景に、4人の子供たちの命が危機に晒され、2人の幼い命が奪われるという悲劇的な出来事から始まる。物証もなく、唯一の容疑者として逮捕されたのは、ひとりの女児の母親。献身的な看病の裏で、彼女が抱えていた心の闇と、周囲との衝突が事件の謎をより一層深めていた。果たして、彼女は冷酷な殺人犯なのか、あるいは無実を訴える冤罪の犠牲者なのか――。

伊豆原は、勝算のない裁判に挑む中で、まるで濃霧に包まれた真実を、一筋の光で照らし出すかのように、法の隙間を縫って真実へと迫っていく。その姿は、彼自身が抱える葛藤と同じく、読者の心に強烈な印象を残す。彼の奮闘は、まるで迷い込んだ霧の中で、ひとりひとりの心に静かに問いかける―「真実とは何か?」という問いを。

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喫茶店の窓際で、伊豆原はページをめくるごとに、事件の詳細と登場人物たちの複雑な思惑、そして法廷での熾烈な戦いに引き込まれていく。彼にとってこの本は、単なる物語ではなく、現実の世界に潜む「霧」を払うための大切なヒントのように感じられた。読み進めるうちに、彼はふと、自分自身の過去やこれからの選択が、この物語と重なり合う瞬間を味わうのだった。

『霧をはらう(上)』は、法と人間の本質、そして真実を見極めるための戦いを描いた、静かでありながらも胸を打つリーガルミステリー。あなたも、この物語の中に潜む、見えざる「霧」が晴れる瞬間を、ぜひ体験してみてほしい。